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June 19, 2005

「KOROSHI 殺し」

[DVD映画]★★★★☆

風車の回る風の強い北国。
白くだだっ広い銀世界に、黒い人陰とポイントの赤。
雪景色の中に響く銃声。
暗転。
逃げる男。
2000年カンヌ映画祭監督週間で正式上映された
この「KOROSHI 殺し」は、極めてシンプルな、小林政広ワールドだ。

『とある不器用で平凡な男に、ある日突然起こる、非日常的な事件』
『モノクロームな北国の風景の中で淡々と繰り広げられる犯罪』

これぞ小林政広監督お得意の世界。
いくつもの作品に、ロケ地である北海道の殺風景な世界が広がり、
そこにポツンと自動車だったり、人物だったりが佇むシーンがやたら多い。
厳しい大自然の中で、人間なんてそれほど小さな存在なのかもしれない。
描かれる“事件”のなんと小さな事か…。
最初、前作「海賊版=BOOTLEG FILM」に、ちょっと似ているかな…とも思ったが、
もっと単純明解に洗練され、リアルな感じがした。
人の気配の無い…とはいえ、民家が並ぶ中での銃声。
フランスの脱獄映画ジャック・ベッケルの「」を彷佛させるような、
大きな音を伴う犯罪行為。
強引なシチュエーションに、思わずドキっとしてしまう。


除雪車が走る、雪深いある北国の町での物語。
3ヶ月程前、会社をリストラされたのだが、
妻和子(大塚寧々)に言い出せない男、浜崎(石橋凌)。
彼には海外留学をしている娘までいるのだが、
毎日会社に行くといってはパチンコへ…。
給料は退職金を給料に見せかけて秘密の口座から振り込んでいた。
そのお金も底をついたある日、
閉店したパチンコ店の駐車場で時間を潰す彼の自動車に
突然走って乗り込んできた一人の男、市原(緒形拳)。
浜崎の境遇を何故か知っているその男は、
何と“殺し屋”のスカウトマンだった。

報酬は一人500万! 支給される拳銃を使っての暗殺。
お金に困った浜崎は気が進まないが、断る事も出来ず、
ズルズルと男に指示されたままに、最初の“仕事”をクリアした。
ところが、不安と動揺と同時に、
久々のこの“労働”に妙に興奮してしまったのだ。
車の中で“仕事”の資料と拳銃を受け取る。
“仕事”を行い、雪の中を逃げる。
そしてその興奮の醒めぬまま妻を抱く。
このくり返し。
映画の“殺し屋”気分で“仕事”が楽しく、次々とこなす。

ところが、ある日の依頼が彼の運命を大きく変える事になった。
次のターゲットであり、依頼者は彼の知人!
同じくリストラされた元上司、上條(深水三章)だった。
これはお金に困った上條の自分のかけた保険金を狙った、
本人からの“殺害依頼”であったのだ…。

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近年日々大量に行われているリストラ。
家族を抱え、仕事第一に生きてきたサラリーマンの中年男には極めて厳しい。
まず、無事職に就ける事が大変で、再就職で以前の収入を超える事は難しく、
失業保険も、もらい続けるわけにはゆかぬ。
でも、家族を養わねばならない。ローンの返済もある。
家族にとっては生活レベルを急に下げる事は困難だし、
リストラにあった父親には威厳があるはずも無い。
実際会社という組織は、仕事が出来ない云々よりも、
とにかく人件費を減らしたい一心で、
愛社精神のある人、断れない人物、いわゆる“いい人”ほど、
リストラのターゲットになったりするものなのだが…
懸命に働いた挙げ句のリストラ、家族はその現状を知らず冷たいなものだ。
海外留学している娘は仕送りの追加をシレッと要求してくる始末。
自分と子供の生活が第一で、夫にはクールな妻達。

こんな境遇のごく普通の中年男、平均的な日本人気質の浜崎は、
仕事のある充実感と、スリルのある殺しの快感にハマってしまった。
最初はとまどっていたが、仲介人の市原に
「次の“仕事”は無いですかね?」とねだるまでに。
だが、ある日の依頼は、同じ境遇だった元上司がターゲット。
となると、自分と重ねあわせざるを得ない。
しかも相手は“家族のために”自分の命を犠牲にしようとしているのに、
自分は“家族のために”彼を殺そうとしている…。
事前にそれとなく、上條の家族の様子を聞いてみたが、妻和子の冷たい言葉。
「上條さんの家族はリストラされてから大変だそう。
 もし、あなたがリストラされたら、
 首をくくる覚悟くらいしておいてちょうだい。」
人事でなく、悩める浜崎だった。
そして、元上司への“仕事”の実行の日。
タクシーの運転手である上條の車に乗り込むが、何だか全てがバレバレ。
だが、おかしなもので開き直った人間に「いつでも殺せ」と言われるより、
「殺さないで」と命を請う人間へ銃を向ける事が出来たのだ。
“仕事”だから………でも………こんな思いは、もう沢山。
やっと人間の心をとり戻した浜崎は、ある決意をした。
しかし、こんな人道に反した行いをした男には、もちろん天罰が下る。
人との出会いは一期一会。
それは肉親だろうと、他人だろうと同じなのだ。
冒頭とエンディングで語られる、
『たぶん人生というのは1台の乗り合いバスで、
 長い旅を続けてゆく事なんだろう 』

互いの人生と触れあい、分かち合いながら、それでも進む。


飄々と“仕事”の依頼をする謎の優秀な?スカウトマン、市原が
言葉数が極端に少なく、淡々と無気味に軽妙。
だが、人間臭い一面があるがゆえユーモアさえ感じられる。
そもそも自分が“悪魔のささやき”でそそのかしたくせに、
まっとうな意見を言って本意を確認してみたり、せなんだり…。
このある意味“悪魔”である市原、緒形拳の演技が上手過ぎ、嵌まり過ぎ。
意味有りげな言葉をポツリ、ポツリと、理論整然と彼にささやかれたら…
誰でもつい“仕事”を請けてしまいそうだ。
しかも、謎の言葉「母親に似てきた」とは、まさか???
石橋凌は、かっこ良過ぎるが、平凡なサラリーマンだった悩める男を好演。
小林作品常連である大塚寧々のごく普通の妻の冷淡さが怖い。
冗談めかした「 愛してないわ。」という言葉。

お父さん達! 家族に仕事する姿を見せておこう!
忙しくても家族の求めるサービスをしておこう!!
いつ何時、何が起こるかわからない昨今、
家族のため、自分のために…。

本編は短く86分だが、特典映像は54分とたっぷり。DVD用撮り下ろし満載!
[特典映像]
1.石橋凌と小林政広監督との対談映像(28分)
2.大塚寧々インタビュー映像(12分)
3.緒形拳インタビュー映像(13分)
4.オリジナル予告編(1分)
 

殺し デラックス版
石橋凌 大塚寧々 緒形拳 小林政広
B00006S25F

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[小林政広監督・フィルモグラフィー]

「CLOSING TIME」(1996)
「海賊版=BOOTLEG FILM」(1998)
「KOROSHI」(2000) 
「歩く、人」(2001) 
「女理髪師の恋」(2003) 
「フリック」(2004 ) 
「バッシング」(2005)

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