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September 15, 2006

「ぼくを葬る」

[劇場映画]★★★★☆

前作でオゾンさんどこへゆくの?と思ったが、今度はこっちだったのね…。
ある日突然宣告され決定しなければならない自己の死に様。

どうしても今回は劇場で観たかったのでG.W.に鑑賞した。
終了後、無言状態の劇場が映画のテーマの深さを物語っており新鮮だった。
前作の「ふたりの5つの分かれ路」で何かが起きた?オゾン節。
しかも「まぼろし」の“最愛の人の死”に続き、…今回は“自分の死”を描く。
この重いテーマをオゾンがどう描くのかはいへん興味深かった。
 
監督は気になっているフランスの若手監督フランソワ・オゾン
2005年フランスで制作されたぼくを葬(おく)る」。
原題は「LE TEMPS QUI RESTE」。
  
31歳の売れっ子ファッション・カメラマンのロマン(メルヴィル・プポー)は、
ある日撮影中に倒れてしまう。
医者にかかったところ、末期癌で余命が役3ケ月と宣告された。
まだ若いロマンに、医者は放射線や点滴での治療をすすめるのだが、
ロマンは治療を拒絶する。

同性愛者のロマンの恋人サシャ(クリスチャン・センゲワルト)に
冷たい言葉を浴びせ別れを決意し、
家族に告白しようとするが、どうしても言う事が出来ず、
父(ダニエル・デュヴァル)母(マリー・リヴィエール)には心配かけないよう
更に姉(ルイーズ=アン・ヒッポー)とは仲違い。
仕事を辞め、唯一祖母のローラ(ジャンヌ・モロー)にだけは病気の事を打ち明けた。
なぜなら…
“おばあちゃんは、僕に似ているから…”

そんな時、たまたまカフェで出会った
ウエイトレスのジャニィ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)夫婦から
持ちかけられたのは“代理父”の依頼。
運命に怒り、周りに心配をかけないように己を孤独に追いやって、
どんどん弱ってゆくロマンに、姉からの手紙で転機が訪れる。
“子供”を意識している事に気付いたロマン。
幼い自分の記憶と幻に出会った時に何かが起きた。
自分と向き合い、今出来る事を遂行し、自分を葬る準備を始める…。
美しいと思ったシーンを切り取るカメラ。
ニコンの一眼レフからコンパクトカメラに変わってからの彼の撮る写真は、
きっと彼の宝物で天国へ持ってゆきたい写真に違いない…。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ある日突然つきつけられる、限りなく近い将来に起きる人生の終焉。
その当事者は病と死への恐怖の中で、
残された人生で行うべき事を短時間で決定せねばならない。

全ての人は孤独に生まれ、孤独に逝く運命を持っている。
その間の限られた人生を如何に生きるか、そして死ぬのか…それが人生。
ロマンを通して自己の人生観が感情と共にえぐり出される気分になった。
リアルで普通な何という事の無いシーンに込められたロマンの想い。
ロマンを演じるメルヴィル・プポーの繊細に揺れ動く感情と
遠くを見つめるかのような美しい瞳、
そして衰えてゆく肉体の変化に、胸をしめつけられる。
祖母を演じるジャンヌ・モローの孫への言葉
“今夜お前と死にたい”。
唯一信頼している肉親の愛情がこもったその言葉には、
ロマンと共に目頭が熱くなった。
余談だが、子供時代のロマン役の少年(ウゴ・スーザン・トラベルシ)の
くりくり巻き毛と瞳がメルヴィル・プポーと似ていてこれにまたグッとくる。

偶然に出あった人に自分の生きた証を委ね、
愛した人から愛されていると知る事が出来たロマン。
突然訪れたつらく悲しい物語を描くのではなく、
何かに立ち向かい得る夢や希望を描くのでもなく、
人間の本能と事実を受容し、自分の死に様を決めた一人の男の心の動きを
極めて間近から繊細に優しく描いた作品だと思う。

少ない余命で何を残せるか…

イザベル・コヘット監督の「死ぬまでにしたい10のこと」も同じようなテーマだったが、
あちらは若い母親だったので、女としてしておきたい事、
旦那や子供達に残しておきたい事、
娘として両親にしておきたい事を綴っていた。
こちらは独身で同性愛者、人生の成功者であった若い男性。
心の動きはおのずと違ってくる。
前者では限界まで母性を与え、後者では母性を求めている気がした。

ちなみに、治る可能性が5%以下と言われ治療を拒否したロマン流の生き様。
後悔しないよう治療する方法をとり、癌と戦う決意をするという生き方。
“健康で死にたい”というロマンの祖母の生き方が最も望まれるものだろうが、
病気…特に癌などの病の場合は、本人の悔いの無いようにするのが一番だと思う。
特に早期発見の場合完治出来る可能性が高いので、もちろん治療すべきだろう。

こんな仕掛けや謎の無い、
フランソワ・オゾン作品は初めて!

円熟したというか、人生の折り返し地点にきたからか…
ほぼオゾンと同じ年代の自分にとっては見事に心に響いた。
これまで常に死と生と性、その源の水=海、そして女の強さと怖さ、男の弱さ…。
表現方法は違っても、常に根源にあるものは同じなのかも。
ちなみに今後“子供の死”をテーマにした作品の予定もあり3部作にしたいそう。
次回作は英語で撮っているという噂だが、こちらはどんな内容なのか楽しみだ。

本作のオゾンの定番のラストシーン。
いつもと違い、悲しい場面なのになぜか優しい安心感がある。
 

「ぼくを葬る」オフィシャルサイト

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フランソワ・オゾン メルヴィル・プポー ジャンヌ・モロー

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