19 posts categorized "★悲しき犯罪者系"

August 02, 2008

「屋敷女」

[劇場映画]★★★★☆

“この女凶暴につき”というコピーがぴったり。
とにかくベアトリス・ダル演じる謎の女が怖い怖い…
壊れゆく女を演じさせるとおフランスいち?
齢を重ね増々パワフルになったかも…
めずらしく妙にリアルなおフランスのユーロ・ホラー。
ちなみに主演のアリソン・パラディは
あのヴァネッサ・パラディの妹で何とコレがデビュー作!!!

____________________

「屋敷女」
原題:A l'interieur

製作国:フランス(2007)
監督:ジュリアン・モーリー/アレクサンドル・バスティロ
製作:ヴェラーヌ・フレディアニ/フランク・リビエール
脚本:アレクサンドル・バスティロ
撮影:ローラン・バレ
音楽:フランソワ・ウード

出演:
ベアトリス・ダル(見知らぬ女)
アリソン・パラディ(サラ)
ナタリー・ルーセル (サラの母親ルイーズ)
フランソワーズ=レジス・マルシャソン
ニコラ・デュヴォシェル
リュドヴィック・ベルティロ
エマン・サイディ
エマニュエル・レンツィ(警官)

____________________

クリスマス・イブの夜
4ヵ月前に事故で夫を亡くしたフォト・ジャーナリストのサラは
明日いよいよ出産という臨月の妊婦。
母や現在の恋人のジャン=ピエールには一人で過ごすと言い
愛していた夫、お腹の子の父である亡きマチューを想い
愛猫と共に静かに過ごしていたのだが…
見知らぬ女が電話を貸してほしいとやってきた…


予告編がインパクト有りすぎたのと、
ベアトリス・ダルにそそられて、つい観てしまったのですが…(汗)
予想を上回るエグさに思わず痛くて直視出来なかった所も…
うへぇ、真っ赤なタイトルバックどおりに
狂暴ダルちゃん登場してからは、血の海!
まぁ、画面が暗くてくっきりはっきり見えなかったのが幸いかも。

ストーリー的にはある程度想像はついたものの、
もう後味の悪いこと悪いこと(笑)
ただでさえ少ないお客がますますシーン…としていましたね。
やっぱりダルちゃんは強烈に恐かった…

主人公の出産を明日にひかえた臨月の妊婦サラ(アリソン・パラディ)
にはもちろん人生最悪な夜だけど、
巻き込まれた人達もとにかく悲惨極まりない…
理由の解らぬ者に殺されるかもしれない恐怖とともに、
この女の強さたるや!
その一途な想いで、目的を果たすべく、
ターミネーターかゾンビの如く躊躇いもなく襲いますから…
そう、悪気が無いだけにタチが悪いタイプの犯罪者。
こいつと戦うのにはまず精神力で勝らねば無理!
破水しながら最後まで闘いぬいたサラは
生まれて来る子を守ろうとするその気力で様々な激痛に耐えつつ、
敵を追い詰めるまで至ったのかも。

しかしながら、救いのないこの映画で
何より印象深かったのが胎児の表情の描き方。
胎児も悲鳴を上げるんです…(泣)
登場する優しい男達をためらいもなく排除する女。
母になりたい女の念は想像を絶するパワーをも産む…

このような事は起きてはいけない、起こしてもいけない。
生まれて来る子供に罪は無いんですから
ちゃんと母の胸に抱かせてあげて下さい。
彼らの幸せのために…ね。

→「屋敷女」オフィシャルサイト

B001FLUIQO屋敷女 アンレイテッド版
ベアトリス・ダル, アリソン・パラディ, ナタリー・ルーセル, ジュリアン・モーリー
キングレコード 2009-01-07

by G-Tools

| | Comments (0)

July 15, 2007

「変態村」

[DVD映画]★★★☆☆

予告編がかなり不気味で気になっており鑑賞。
たしかシネマライズでの単館上映だったかな。
人里離れた森の奥の僻地の村の不気味さと
“加速する孤独な人間の狂気”
愛するひとを想い独り占めしたいという感情が
個人的な妄想だけでなくエスカレートしてゆく異様さが
ただただ痛々しく不気味。

_________________

「変態村」
 原題:CALVAIRE

製作国:ベルギー/フランス/ルクセンブルグ(2004)

監督:ファブリス・ドゥ・ヴェルツ
脚本:ファブリス・ドゥ・ヴェルツ/ロマン・プロタ
音楽:ヴァンサン・カエイ

出演:
マルク・ステヴァンス(ローラン・リュカ)
バルテル(ジャッキー・ベロワイエ)
ロベール・オルトン(フィリップ・ナオン)
ほか

_________________

タイトルにインパクトありますが
ちょっと内容とはズレていますな。
変態さんがわんさか登場するわけでもなく
孤独な狂気と純愛が描かれています。

地方を独りで旅するちょっと可愛いミュージシャン
(日本でいうほぼ演歌的な感じ)のマルクは
齢上のおばさま達にモテモテ。
南仏に向かうはずだったのに…車の故障で立ち往生。
とある村のはずれのペンションに泊めてもらうのだが
オーナーのバルテルの様子がどんどんおかしくなってくる…
そして、その村の住人の様子もあきらかに妙。
マルクはどんどんとんでもない状態へと追いつめられてゆく…
彼に未来はあるのだろうか???

最初はまったりと、どんどん加速する狂気とあっけないラストには
思わず『ええ…』(汗)
十字架へ張付けられてのお仕置きや
痛そうなシーンも多いけれど
それを上回る異常な愛情表現のほうが怖いですね。
バーでの村の男のダンスシーンがとにかく不気味。
不協和音のピアノで奏でられる音楽で
村の男達が踊るのはまるでゾンビか案山子のダンス。
目に焼き付いて離れません。

意外にも妙にクォリティが良い部分やこだわりもあったりで
ぐいぐい見せる所はあるけれど
ストーリー的にはいまひとつかな。
愛する女性を失った寂しさ
そして女性不在の村?から起因するのか
描かれているのは孤独な狂気。
村に入る前の町でも老婆や中年女性に迫られていた
親しみやすい中性的な魅力のある
美青年マルクは妙な色気と美声のせいで
こういった人を狂わせる才能を持っていたんでしょう。
僻地の村では、もはや女性として愛されていましたし…

それにしても救いの無い映画でした。
初の長編作との事で、盛り込み過ぎもある。
メイキングを見ると監督の暑苦しい思いが堪能できますね。
村人のドン的なロベールを演じるのは
これまた変態ものを演じるとピカイチのフィリップ・ナオン♪
リハする姿…やっぱり上手いわ…この人。
予告編のほうが本編よりは面白いタイプの作品。

ちなみに…
特典映像の短編『ワンダフル・ラヴ』がおすすめ。
こちらのほうが完成度高くて面白い。
20分という短時間ながら寂しい年増女の狂気を見事に描いています。
目新しさは特に無いけれど、とにかく主人公の女性の目がイッちゃってるし
ケーキ食べてても、肉買っていても、
牛タン料理してても、歩いていても怖い…
作品について楽しそうに熱〜く語るこの監督の
今後の作品にちょっと期待します。


B000H4W91M変態村
ローラン・リュカ ファブリス・ドゥ・ヴェルツ ジャッキー・ベロワイエ
キングレコード 2006-10-04

by G-Tools

| | Comments (0)

July 14, 2007

「ハード キャンディ」

[DVD映画]★★★★☆

童話の持つ残酷さをモチーフに
少女の持つピュアな残酷さと
好感度のある普通の中年男の持つ微妙なイヤラシさを
とことん極端に描いたもはやサスペンス・ホラー。
特に男性は観た後嫌な気分になる事うけあい。
でも…決して良い子と身に覚えのある方は観てはいけません…

_________________

「ハード キャンディ」

製作国:アメリカ(2005)
監督:デヴィッド・スレイド
脚本:ブライアン・ネルソン
音楽:ハリー・エスコット/モリー・ナイマン

出演:
ジェフ(パトリック・ウィルソン)
ヘイリー(エレン・ペイジ)

「ハード キャンディ」オフィシャルサイト

_________________

な…なんて事を!うへ〜いやだ…痛いって…!!
予告編から痛そうだったけど…
想像以上に精神的にも痛〜い物語。
あどけない表情のヘイリーちゃんが、
自分を変に正当化しつつ行う犯罪行為たるや…
何とも言えない嫌〜な雰囲気満点!!!

出会い系サイトで14歳の少女とお友達になろうと思って油断したら
どえらい目に合ってしまう可哀想なカメラマン中年男の物語。
ジェフは端正でインテリ風のカメラマン。
チャットで出会って3週間の女の子ヘイリーとカフェで待ち合わせ
ジェフの自宅へ行くことになるが…
まだまだ幼なさの残るヘイリーちゃんにスクリュードライバー飲まされて
目覚めた時には身体を縛られ身動き取れず自宅に監禁された。
彼の女性遍歴を尋問された挙句に…そう…去勢。

可愛い顔して淡々と“作業”を行うヘイリーちゃん。
これは彼女の好奇心的なお遊びなのか、はてまた復讐なのか
(最初からゲームの要素はないですけどね)
ジェフは犯罪を犯していたのか、はてまたただのロリコンなのか
どっちにしてもヘイリーちゃん…
ちょっとやり過ぎです…ってかできんでしょ…普通!!!
しかも初めて…医学書読みながら…というのがさらに痛いっ!!!

お隣の日本人の奥さん?のおマヌケなセリフや
実際小娘にあそこまで出来るのか???…とか
氷の麻酔やディスポーザーとかロープとか…
あちらこちらに突っ込みどころ満載だけど
とにかく感情移入を許さず、少女が中年男をグリグリと最も嫌な方法で
追いつめてゆくそのシチュエーションたるや!!!!!
泣いてもわめいても不利なのは中年男。
とことん精神的に追いつめてやる…的な
最後の最後まで少女のいや〜な残酷さにはゾッとします。

あの微妙〜なロープの長さ…きっと………
まぁ、悪いのは男も女もどっちもどっち…
ジェフも何のかんの少女との遊びは初めてでは無さそうでしたし。
危ういものには手を出すなという教訓にして欲しいですな。

ところで赤いパーカーを被った赤ずきんちゃん…
悪い狼を見事罠にはめ満足出来たんでしょうか?
あの友人との電話の軽いノリは
そもそも復讐とかではなく
単なる興味本位とかだったりする気も…
いずれにせよ末恐ろしい〜。

B000LPS3PSハードキャンディ デラックス版
パトリック・ウィルソン デイヴィッド・スレイド エレン・ペイジ
ジェネオン エンタテインメント 2007-02-23

by G-Tools

| | Comments (0)

July 08, 2007

「初恋」

[DVD映画]★★★☆☆

あの“三億円事件”の新たなる捉え方が面白い。
あくまでも“実行犯”が女子高生という事で
犯人像には妙に真実味もあったりするのが興味深い。

_______________

「初恋」

制作国:日本(2006)
監督:塙幸成
原作:中原みすず『初恋』(リトル・モア刊)
脚本:塙幸成
音楽:COIL

出演:
みすず(宮崎あおい)
岸(小出恵介)
亮(宮崎将)
ユカ(小嶺麗奈)
タケシ(柄本佑)
テツ(青木崇高)
ヤス(松浦祐也)
バイク屋(藤村俊二)

「初恋」オフィシャルサイト

_______________

あの“三億円事件”の実行犯が実は女子高生だったという
面白い設定の物語だった。
“三億円事件”好きのワタシはちょっとワクワク…
宮崎あおいの体当たり演技に好感が持てるが
声と体型的にちょっと無理が…

1968年12月10日雨の中での犯行
1975年12月10日の公訴時効の報道はおぼろげだが
1988年12月10日の民事時効を迎えた時には
少しドキドキしたものだ…。

寂しい境遇の高校生のみすずは
幼い頃に母と一緒に出て行った兄の亮に会うため
ジャズクラブに出入りするようになり
そこで出会った岸に恋をした。

時代は学園紛争のまっただ中に突入し
権力に対する為に事件をおこす岸の思惑は
恋する人のために犯行を行うみすずにより成されたと思われたが…

あまりにも純粋でドジながら懸命なみすずの姿。
親に捨てられ兄を頼りそこで出会った初恋の人。
時代もあり感化されるのは17歳という
可能性も沢山あるが、不安定な年齢だからなのかもしれない。
何故だかこのハイティーン時代は誰もが
駄目な世の中を変える事が出来るように思え
行動を起こせる貴重な時代でもあったりする

とはいえ“三億円事件”の実行犯…
成人男性とはあまりにもかけはなれた体格と声。
あまりにも不自然であった…
バイクで雨の中を走るだけでいっぱいいっぱい…
少し無理が有り過ぎたかな。
小さな身体で雨の中自動二輪を扱う困難さだけは
十分伝わってくる…シートを引きずりながら
ヨロヨロ走る姿は印象的であった。

このシートをひっかけたまま走った偽装白バイは事実であり
その不用意かつどこか未熟さを感じる所から
高校生実行犯…というアイデアが生まれたのかもしれない。
時代に流されるメンバーには年代が
Bに出入りする彼らに感情移入は出来なかったが
ねつ造されたのでは…というあのモンタージュ写真や
数多くの遺留品があったにも関わらずの捜査の難行…
事件が国家権力でもみ消された…というのは
妙に真実実もあり興味深いものがある。

おひょいさん演じるバイク屋さんといい
集っていた若者達の行く末には
ちょっと物悲しさもあった。

B000FZENKS初恋 プレミアム・エディション
中原みすず 塙幸成 宮崎あおい
ハピネット・ピクチャーズ 2006-11-24

by G-Tools

初恋 スタンダード・エディション
中原みすず 塙幸成 宮崎あおい
B000IU38I8

初恋
サントラ コイル 岡本定義
B000F9UDK8

初恋
中原 みすず
4898150640

“三億円事件”を描いたドラマ&コミック
■ドラマ 「悪魔のようなあいつ」 - 1 レビュー
■ドラマ 「悪魔のようなあいつ」 - 2 レビュー
■コミック 「悪魔のようなあいつ」 レビュー

| | Comments (0)

July 04, 2007

「ゆれる」

[DVD映画]★★★★☆

幼い頃より信頼しきっていたものが
お互い一度ゆらいでしまうとやっかいなのかもしれない。
特に異性によってゆらぎは起こりうる…。

____________________________

「ゆれる」

製作国:日本(2006)
監督・脚本:西川美和
音楽:カリフラワーズ

早川 猛(オダギリジョー)
早川 稔(香川照之)
早川 勇(伊武雅刀)
早川 修(蟹江敬三)
岡島洋平(新井浩文)
川端智恵子(真木よう子)
検察官(木村祐一)
警部補(ピエール瀧)
裁判官(田口トモロヲ)

「ゆれる」オフィシャル・サイト

____________________________

田舎の実家で家業を継ぐ、石橋をたたいても渡れない生真面目な兄と
都会でカメラマンになり、揺れる吊り橋も平気に渡る奔放な弟。
母の葬儀に久しぶりに帰省した弟は
久しぶりに逢った家族や親族の中でも浮きまくり。
父親はちょっとした事ですぐ怒鳴る。
でも兄はいつも優しくそんな弟に接してくれる。
弟もそんな兄が自慢でもあり、大好きなのだった。

だが、実家のガソリンスタンドで
従業員の彼女と兄が仲良くしている所を見かけてから
兄弟の絶対的な信頼関係が崩れてゆく…
彼女は昔から弟に好意があったようで
弟が彼女を誘えば大人の関係にはあっと言う間…
渓谷へのドライブを兄が提案し
3人は吊り橋のかかる川に来た。
子供のようにはしゃぐ兄…
冷静に、ファインダー越しに自然を楽しむ弟…
兄弟の間に挟まれた女がとった行動でとある事件が…

殺人罪に問われる兄を何とか救おうとする弟。
そして父親の兄弟である叔父の弁護士。
だが、優しくて生真面目すぎる兄にもずっと悩みはあったのだ。
真実と虚偽。記憶すらあちらこちらに揺れた結果
弟は何年も自分の虚偽に目を閉じた。

ガソリンスタンドの従業員のおせっかいで
ふと想い出した母親の形見の8ミリフィルムにを観て
彼はやっと目をそらしていた真実に気付く。
女性の存在でゆれた兄弟達は
再び女性の残したものでゆり戻されたのかもしれない。
言葉よりさりげない光景が物語る。

特に田舎で顕著なのだが、
主に長男とその他の兄弟の間には大きな溝があったりする。
長男やそれに準じるものには
生まれながらにして跡継ぎという使命があり
それ以外の子供には親の遺産は入らぬが
その重苦しい期待はかからない。
必然的に跡継ぎになったものは
その一家全体を背負い使命をまっとうすべく
自分を押し殺してしまう傾向にある。
幼い頃より年長者であるがゆえに周りを気遣い
選択の余地無く実家で我慢を重ねてきた兄の苦悩。
それとは真逆に自分の居場所を探さなければならなかった次男。

昔気質の頑固な父の間に入り自分を守ってくれた
兄であり母親的な絶対的な愛情を信じていたゆえに
一度ゆらいだ信頼はなかなか元に戻れない。
兄も一瞬ゆれた心での発言の中で消えた信頼が戻るのを
罪を償いながらじっと待ち続けたのだろう。
オダジョー、新井くん、伊武さん…
そして何といっても香川さんのあの笑顔が印象的。
名優ぞろいで気が抜けない緊張感がある作品だ。


B000KIX658ゆれる
オダギリジョー 西川美和 香川照之
バンダイビジュアル 2007-02-23

by G-Tools

ゆれる オリジナルサウンドトラック
カリフラワーズ
B000FZDMIC

| | Comments (0)

June 19, 2005

「KOROSHI 殺し」

[DVD映画]★★★★☆

風車の回る風の強い北国。
白くだだっ広い銀世界に、黒い人陰とポイントの赤。
雪景色の中に響く銃声。
暗転。
逃げる男。
2000年カンヌ映画祭監督週間で正式上映された
この「KOROSHI 殺し」は、極めてシンプルな、小林政広ワールドだ。

『とある不器用で平凡な男に、ある日突然起こる、非日常的な事件』
『モノクロームな北国の風景の中で淡々と繰り広げられる犯罪』

これぞ小林政広監督お得意の世界。
いくつもの作品に、ロケ地である北海道の殺風景な世界が広がり、
そこにポツンと自動車だったり、人物だったりが佇むシーンがやたら多い。
厳しい大自然の中で、人間なんてそれほど小さな存在なのかもしれない。
描かれる“事件”のなんと小さな事か…。
最初、前作「海賊版=BOOTLEG FILM」に、ちょっと似ているかな…とも思ったが、
もっと単純明解に洗練され、リアルな感じがした。
人の気配の無い…とはいえ、民家が並ぶ中での銃声。
フランスの脱獄映画ジャック・ベッケルの「」を彷佛させるような、
大きな音を伴う犯罪行為。
強引なシチュエーションに、思わずドキっとしてしまう。


除雪車が走る、雪深いある北国の町での物語。
3ヶ月程前、会社をリストラされたのだが、
妻和子(大塚寧々)に言い出せない男、浜崎(石橋凌)。
彼には海外留学をしている娘までいるのだが、
毎日会社に行くといってはパチンコへ…。
給料は退職金を給料に見せかけて秘密の口座から振り込んでいた。
そのお金も底をついたある日、
閉店したパチンコ店の駐車場で時間を潰す彼の自動車に
突然走って乗り込んできた一人の男、市原(緒形拳)。
浜崎の境遇を何故か知っているその男は、
何と“殺し屋”のスカウトマンだった。

報酬は一人500万! 支給される拳銃を使っての暗殺。
お金に困った浜崎は気が進まないが、断る事も出来ず、
ズルズルと男に指示されたままに、最初の“仕事”をクリアした。
ところが、不安と動揺と同時に、
久々のこの“労働”に妙に興奮してしまったのだ。
車の中で“仕事”の資料と拳銃を受け取る。
“仕事”を行い、雪の中を逃げる。
そしてその興奮の醒めぬまま妻を抱く。
このくり返し。
映画の“殺し屋”気分で“仕事”が楽しく、次々とこなす。

ところが、ある日の依頼が彼の運命を大きく変える事になった。
次のターゲットであり、依頼者は彼の知人!
同じくリストラされた元上司、上條(深水三章)だった。
これはお金に困った上條の自分のかけた保険金を狙った、
本人からの“殺害依頼”であったのだ…。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

近年日々大量に行われているリストラ。
家族を抱え、仕事第一に生きてきたサラリーマンの中年男には極めて厳しい。
まず、無事職に就ける事が大変で、再就職で以前の収入を超える事は難しく、
失業保険も、もらい続けるわけにはゆかぬ。
でも、家族を養わねばならない。ローンの返済もある。
家族にとっては生活レベルを急に下げる事は困難だし、
リストラにあった父親には威厳があるはずも無い。
実際会社という組織は、仕事が出来ない云々よりも、
とにかく人件費を減らしたい一心で、
愛社精神のある人、断れない人物、いわゆる“いい人”ほど、
リストラのターゲットになったりするものなのだが…
懸命に働いた挙げ句のリストラ、家族はその現状を知らず冷たいなものだ。
海外留学している娘は仕送りの追加をシレッと要求してくる始末。
自分と子供の生活が第一で、夫にはクールな妻達。

こんな境遇のごく普通の中年男、平均的な日本人気質の浜崎は、
仕事のある充実感と、スリルのある殺しの快感にハマってしまった。
最初はとまどっていたが、仲介人の市原に
「次の“仕事”は無いですかね?」とねだるまでに。
だが、ある日の依頼は、同じ境遇だった元上司がターゲット。
となると、自分と重ねあわせざるを得ない。
しかも相手は“家族のために”自分の命を犠牲にしようとしているのに、
自分は“家族のために”彼を殺そうとしている…。
事前にそれとなく、上條の家族の様子を聞いてみたが、妻和子の冷たい言葉。
「上條さんの家族はリストラされてから大変だそう。
 もし、あなたがリストラされたら、
 首をくくる覚悟くらいしておいてちょうだい。」
人事でなく、悩める浜崎だった。
そして、元上司への“仕事”の実行の日。
タクシーの運転手である上條の車に乗り込むが、何だか全てがバレバレ。
だが、おかしなもので開き直った人間に「いつでも殺せ」と言われるより、
「殺さないで」と命を請う人間へ銃を向ける事が出来たのだ。
“仕事”だから………でも………こんな思いは、もう沢山。
やっと人間の心をとり戻した浜崎は、ある決意をした。
しかし、こんな人道に反した行いをした男には、もちろん天罰が下る。
人との出会いは一期一会。
それは肉親だろうと、他人だろうと同じなのだ。
冒頭とエンディングで語られる、
『たぶん人生というのは1台の乗り合いバスで、
 長い旅を続けてゆく事なんだろう 』

互いの人生と触れあい、分かち合いながら、それでも進む。


飄々と“仕事”の依頼をする謎の優秀な?スカウトマン、市原が
言葉数が極端に少なく、淡々と無気味に軽妙。
だが、人間臭い一面があるがゆえユーモアさえ感じられる。
そもそも自分が“悪魔のささやき”でそそのかしたくせに、
まっとうな意見を言って本意を確認してみたり、せなんだり…。
このある意味“悪魔”である市原、緒形拳の演技が上手過ぎ、嵌まり過ぎ。
意味有りげな言葉をポツリ、ポツリと、理論整然と彼にささやかれたら…
誰でもつい“仕事”を請けてしまいそうだ。
しかも、謎の言葉「母親に似てきた」とは、まさか???
石橋凌は、かっこ良過ぎるが、平凡なサラリーマンだった悩める男を好演。
小林作品常連である大塚寧々のごく普通の妻の冷淡さが怖い。
冗談めかした「 愛してないわ。」という言葉。

お父さん達! 家族に仕事する姿を見せておこう!
忙しくても家族の求めるサービスをしておこう!!
いつ何時、何が起こるかわからない昨今、
家族のため、自分のために…。

本編は短く86分だが、特典映像は54分とたっぷり。DVD用撮り下ろし満載!
[特典映像]
1.石橋凌と小林政広監督との対談映像(28分)
2.大塚寧々インタビュー映像(12分)
3.緒形拳インタビュー映像(13分)
4.オリジナル予告編(1分)
 

殺し デラックス版
石橋凌 大塚寧々 緒形拳 小林政広
B00006S25F

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

[小林政広監督・フィルモグラフィー]

「CLOSING TIME」(1996)
「海賊版=BOOTLEG FILM」(1998)
「KOROSHI」(2000) 
「歩く、人」(2001) 
「女理髪師の恋」(2003) 
「フリック」(2004 ) 
「バッシング」(2005)

「フリック」オフィシャルサイト
モンキータウン・プロダクション
小林政広監督のブログ

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

■ 映画「歩く、人」レビュー
■ 映画「フリック」レビュー
 

| | Comments (0)

June 12, 2005

「フリック 完全版」

[DVD映画]★★★☆☆

また悩める作品を観てしまった…!!!
小林政広監督…どうしてくれます?

今年のカンヌ映画際でちょっと話題になった、
日本人監督としては初の3年連続カンヌ国際映画祭出品を成し遂げ、
今回新作の「バッシング」をコンペティション部門へ出品、
赤絨毯を歩いたが惜しくも受賞を逃した、あの小林政広監督の前作品だ。
今年のあたまに地味に公開していた不思議なサスペンス「フリック」。
案の定、やはり観そびれてしまっていた。
早くもDVDになっていたので、レンタルしようと探したが…やはり無い。
貧乏を売りにしている、監督の製作に貢献すべく?DVDを購入。
昨年「歩く、人」で、少し紹介したこの監督の奇妙な世界に、
またもや翻弄される事になってしまった。
香川照之の奥深い演技、大塚寧々の多彩ぶり、
そして、この春急逝した小林監督の音楽の師匠、高田渡のインパクトある怪演と
エンディングで弾き語る『ブラザー軒』が素晴しい!

最愛の妻(葉月螢)を殺害され、酒におぼれて自宅ひきこもっていた刑事、
村田(香川照之)をある日、同僚の滑川(田辺誠一)が訪れた。
円山町のラブ・ホテルでバラバラにされ殺された女子大生、
楠田美知子(安藤希)の身元確認のため、
彼女の兄(村上連)を東京に連れてくるという任務を説得され、
共に苫小牧に向かう事になった。
被害者美知子の自宅に着いた村田は、足の不自由な兄の様子が気になり、
越権行為知りつつも刑事の血が騒ぐ。
滑川の警察学校時代の先輩であり地元の市警である佐伯(田中隆三)と
及川(松田賢二)による歓迎会。
翌朝、湖のほとりで発見された被害者の兄の死体を自殺と決め込む地元市警。
彼等に不信感を覚えた村田は単独で捜査を開始した。

被害者美知子がよく来ていたというバー。
そこの雇われ店長の美しく謎めいた女性、伸子(大塚寧々)。
謎のヤクザ(本多菊次朗)に襲われる。
下宿の大将(高田渡)との妙な会話。
美知子の友人でアルバイトとしてバーで働く愛(安藤希・ニ役)の衝撃的な証言。
事件が解明出来るかと思えば、一瞬にして覆されるこの町の人間の言葉。
村田は夢と妄想と現実が交錯し、誰も信じられなくなってゆく。
そんな中で妻の事件の記憶すら曖昧に思えてくるのだった。
だが、刑事の本能が村田をつき動かす。
犯人は誰だ?真実とは??

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

冒頭の衝撃的なチェーンソーの音!
逃げまどう女の子の悲鳴!!
そこから、極めてゆる〜く、長〜い第I章が始まる。
バラバラにされた何千ピースものパズルを、
少〜しづつ、ゆっくりと記憶と勘と忍耐力を頼りに
真実に向かって1ピースずつ組み合わせてゆく感じ。
人物を小さく映すひきの画面、無言の会話の無い長回し、
のんびり淡々と、しかも謎が増えてゆく…これで約1.5時間!!!
だが、無口で無表情でぶっきらぼうな村田の
「生まれてから一度も映画を観た事がない」
「生まれてから一度もパンを食べた事がない」
「生まれてから一度も刑事になろうとしか考えた事が無い」
この言葉がとても印象的だった。

第II章、から少しずつテンポが加速し急展開!!!
やはり全てのささいな出来事や言葉にすら緻密に謎が隠されていたのだ。
妄想シーンの前後から浮かびあがる、あまりにも悲しい真実。
そしてまたそれとは違った新たな真実が次々と目の前で展開され、
妄想と現実、どれが本当の真実なのか解らなくなって来る。
リピートされる妻を殺された現場のシーン。
開いた窓から流れる風で鳴る風鈴。
村田の涙を指で拭いてあげる滑川の真意とは…。

そして、エピローグ。
やはり、どど〜んとどんでん返し。
さっきのは何?あの電話は??あの男はあれは誰だ???
やはり、これが真実だったのか????
生きているのか死んでいるのか…
ただ、村田は悲しるぎる現実の後に、
幸福を見つけた…これだけは真実に違い無い。

とはいえ、すっきりとまだ謎を解明出来ずにいる自分に苛立ちながら、
この長い道のりをまた(ちょっと早送りしつつ)観返す事になるんだろうな…。
これぞ緻密なサスペンス映画の醍醐味。

フリック 完全版
香川照之 小林政広 田辺誠一 大塚寧々
B0007MCJFA

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
[小林政広監督・フィルモグラフィー]

「CLOSING TIME」(1996)
「海賊版=BOOTLEG FILM」(1998)
「KOROSHI」(2000) 
「歩く、人」(2001) 
「女理髪師の恋」(2003) 
「フリック」(2004 ) 
「バッシング」(2005)

「フリック」オフィシャルサイト
モンキータウン・プロダクション
小林政広監督のブログ

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

■ 映画「歩く、人」レビュー
■ 映画「KOROSHI 殺し」レビュー
 

| | Comments (0)

April 16, 2005

「オールド・ボーイ」

[DVD映画]★★★★☆

こりゃ凄い!
評判どおり。なかなか見応えのある作品だった「オールド・ボーイ」。
チェ・ミンシクの凄みのある演技は絶品!
最近観た韓国映画の中でも傑作のうちの一つだ。

監督・共同脚本は「JSA」のパク・チャヌク
出演は「シュリ」のチェ・ミンシク、「春の日は過ぎゆく」のユ・ジテ
「バタフライ」のカン・ヘジョン
音楽はチョ・ヨンウクのプロデュースで
若くして素晴らしい才能を発揮しているイ・ジス
チェ・スンヨン、シム・ヒョンジュンの3人の作曲家で3人の人物を描き競作。
2004年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞。
とにかく前情報無しで観て楽しもう!!

以下結末は書きませんが若干ネタバレ有り。
これから観る方はこの先を読まない事をお勧めします。

冒頭、とある雨の日。
まるで新橋の酔っぱらい状態の極々普通のサラリーマン、
オ・デス(チェ・ミンシク)は、
妻と幼い娘の待つ我家へ娘の誕生日祝いの天使の羽のプレゼントを買い、
電話ボックスで“帰るコール”をしていた所を、
紫の傘を持った男達に誘拐され狭い小部屋に監禁される。

いったい誰が、何の目的で?

何故監禁されているのか不明。
外は見えず場所も分からない。
食事や身の回りは世話される。
ただ…テレビの試聴は可能。

そこでオ・デスは自分が妻殺しの容疑者になっている事を知る。
孤独との戦い。蟻にまみれる妄想。謎のガス。催眠術師の女。
いつしか彼はは自力で脱走すべく鍛え始めるのだ。
そして…15年が過ぎた時…
突然解放された。

お前は誰だ?何故俺を15年も監禁した?

持たされていた携帯電話に謎の男からメッセージがあり、
一軒の寿司屋に入ったオ・デス。
そこにいた美しい手の冷たい女の板前ミド(カン・ヘジョン)と共に、
犯人を探す事になるのだが、これすらも犯人が仕組んだ罠だった…。
妻を殺され15年の自由を奪われた復讐に燃えるオ・デスは、
監禁時に与えられた餃子を作った店を探し食べ歩き、
ついに監禁された場所を突き止めた。
そんな彼等の前に現れた謎の男ウジン(ユ・ジテ)は、
お互いの命を賭けた“ゲーム”を強制。

5日以内に謎を解き明かせ。解き明かせなければお前を殺す。
 解きあかせば…オレが死んでやる。

もはや、オ・デスは監禁した犯人を突き止め復讐するしかないではないか!!!

どうして監禁されたかではなく、どうして解放されたか。
オ・デスの舌は喋り過ぎた。
今までの人生を復習しろ。そして思い出せ。

オールド・ボーイ=卒業生。15年の意味。
情報を集め、無くした記憶をたどり、自らの軌跡をたどり、
思いもかけない事実にたどりついた時、
オ・デスはおぞましい新たな事実を知る事となる…。

“まさかこんな商売が!”“復讐しあう?”
というアイデアがとにかく素晴らしいと思ったら、
1996年から1998年にかけて「漫画アクション」連載されていた漫画、
オールド・ボーイ —ルーズ戦記土屋ガロン・作/嶺岸信明・画が原作。
おそるべし!日本コミック界のパワー!!
そしてこれをパク・チャヌク監督に勧めたのが、
殺人の追憶」のポン・ジュノ監督だというではないか!!!
さすが…サブカル・オタク!やっぱりセンスが良い。

さて映画だが、もちろんこの面白い設定だけではなく、
伏線を含め非常に上手く作られている。
オープニングからエンディングまで細部に凝りまくった濃密な映像。
更に語り口とテンポの良さ。
模索しながら少しずつ掘り進むトンネルが一気に開通した時の衝撃。
重いテーマをちゃめっけでカバーした演出がニクイ。
まず、オ・デスのダメおやじから進化した魅力的なドレッド風ヘア。
自主筋トレとイメージ・トレーニングで強化された怒るオ・デスのファイティング!。
トレードマークのハンマーの差す先、赤いライン。
韓国ではなかなかめずらしいベッド・シーン。
催眠ガスで眠る彼等を切なげにガスマスク着用で眺めるストーカー野郎。
監禁部屋探しの餃子の食べ歩きはなかなかツボだった。
何より必見なのはチェ・ミンシクの役者根性の入った肉体改造と迫力の怪演!!!
そして、激痛・グロテスクシーンが意味深げに多用されている。
“あんな生き物”を生で食べたり、
“こんなもの”をスポンと抜いたり
“まさかのそんなもの”をジョキッとなど…
アタタ…なシーンには要注意!。

傷ついたものに復讐は最高の薬だ。やってみろ。

だが、復讐の先にあるものは明るい未来であるわけが無い。

獣のような自分だが、生きているいる価値があっても良いではないか

舌は災いのもと。だがまさか“あんな理由で…”とは!!
男女の愛。家族の愛。親子の愛。究極の愛。
どこかで歪んでしまった愛情はその歪みが大きい程、
狂おしく、より激しく突き進む。
重い…重すぎる!!!
それでありながら、確認のためにもう一度観たくなる、濃厚な一本。
 
オフィシャル・サイト
 ↓
http://www.oldboy-movie.jp/

オールド・ボーイ プレミアム・エディション
チェ・ミンシク パク・チャヌク ユ・ジテ カン・ヘジョン

by G-Tools

切なく印象的なワルツが良かった!
オールド・ボーイ オリジナル・サウンドトラック(CCCD)
サントラ

原作コミック
オールド・ボーイ —ルーズ戦記
土屋ガロン 嶺岸信明
オールドボーイ—ルーズ戦記 (1) オールドボーイ—ルーズ戦記 (2) オールドボーイ—ルーズ戦記 (3) オールドボーイ—ルーズ戦記 (4) オールドボーイ—ルーズ戦記 (5) オールドボーイ—ルーズ戦記 (6) オールドボーイ—ルーズ戦記 (7) オールドボーイ—ルーズ戦記 (8)

オールド・ボーイオフィシャルブック
メディア出版部

ノベライズ
オールド・ボーイ
大石 圭


 
■コミック「オールド・ボーイ —ルーズ戦記」レビュー
 

| | Comments (6)

February 07, 2005

「トーク・トゥ・ハー」

[DVD映画]★★★★★

男達の一方的な報われぬ愛と目を閉じた無言の女達の愛。

スペインの奇才「神経衰弱ぎりぎりの女たち
オール・アバウト・マイ・マザー」などのペドロ・アルモドバル監督・脚本による、
二人の昏睡状態の女性とそれぞれを愛する二人の男性を描くヒューマン・ドラマ。
あらゆる要素を含むアルモドバル監督の真骨頂ともいえる「トーク・トゥ・ハー」。
あまりにも美しく繊細な映像と音楽と絶望的な設定に圧倒されながら、
登場人物の織り成す人間模様に心が動かされずにいられない。
2002年度アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した作品。

不思議なダンスの舞台。
盲目の女とそれを助ける男。そして壁に当たっては嘆く同じく盲目の老女…。
そして、この舞台を観ている二人の男。
一人は淡々と周りを観察し、もう一人は感激して泣いている。
この象徴的な場面がこの先にある物語を暗示する。

病室のベッドで植物状態にある少女アリシア(レオノール・ワトリング)は、
この4年間、看護士のベニグノ(ハビエル・カマラ)の妄信的な看護を受けていた。
その完璧なまでの甲斐甲斐しさ。
母親の看護で身に着けたという技術。
爪をとぎ、髪を整え、化粧をし、マッサージし、着替えをさせ、体を洗う…。
その作業をアリシアを愛しく見つめながらも淡々こなす。
そして、今日あった事などを一心に彼女に語り続けるのだ。

一方、劇場で泣いていた男マルコ(ダリオ・グランディネッティ)が恋している
女闘牛士リディア(ロサリオ・フローレス)も、
競技中の事故によって昏睡状態で入院する事になる。
絶望に困惑していたマルコは、ベニグノとの出会いによって、
リディアの看護をするようになり、二人に友情が生まれていく…。

この作品の主人公達は孤独だ。
人間の孤独感が生み出すもの…それは愛情であり、友情であり、同情であり、
そして…
ベニグノの献身的な看護には、ある種の異常さがあった。
彼は言う「人生の中で最も充実した4年間だった」
窓から見ていた憧れの少女とずっと一緒に過ごしている4年間。
一方的な愛だから喧嘩もしない。だから仲が良いのだと…。
マルコは言う「僕はその正反対だ」
そして、マルコは愛しいリディアが昏睡状態になる前にすら、
恋人だと思っていた、彼女の心は彼へは向いていなかった事実を知る。

ベニグノの愛ゆえの行動。
サイレント・フィルム「縮みゆく恋人」に触発されて行った行為。
それによってアリシアは目覚めたのかもしれないが、決して許さる行為では無い。
それが理解出来ないベニグノはもはや狂気の世界の住人に近い。
あくまでも一方的な愛。愛される事を知らないベニグノ。
もう少し相手の立場になれたなら、
実際に愛しあう事が出来たかもしれないのに…。

一見人間は何を考えているか、他人には全く解らない。
正しい、間違いの尺度も人それぞれ。
心に“闇”のある人間は得てしてそれを表に出さない。
心に“病み”のある人間は、自覚が無いがゆえに、
それが優しさや生真面目さにも見える。
心が止まった植物状態の人間でも、生きているのだから何かを感じてはいるはず。
彼等は何がきっかけで目覚めるか解らないし、
そのまま目覚めないのかもしれない。
看護する者の期待と不安、そして焦り…。

夢見るおしゃべりなベニグノのこんなにも深い愛情
         —————でもそれは犯罪と背中合わせ。
現実的で無口なマルコの愛は広い不器用な愛情
         —————報われないけれど未来のある愛。

この映画はまた舞台で終わる。
今度は男達の手によって運ばれる歌う女…。
ラスト・カットでベニグノの愛は意外にも報われたと知る事になる。
内向的でストーカーまがいのマザ・コン男の余りにもセツない恋愛の結末だけれど、
意外と彼にとっては最悪では無かったのかもしれない。
彼がいなければアリシアの未来も無かったのだ。
そして、泣く男マルコにもほんの少しの希望を残した…。
内向的な変態さんの純愛をここまで美しく深く描いた監督はあっぱれ!

とにかくアルモドバル監督のこだわりが細部にまで効いていた。
ドイツの振付家ピナ・バウシュの『カフェ・ミュラー』の舞台
サイレント・フィルム、看護師の手際の良い仕事、昏睡状態の人間の表現 etc……。
あらゆる要素やモチーフは必然性があるがゆえ存在し、
巨大なタペストリーに細密に描かれた絵のように完成されている、そんな作品。
変態アルモドバル監督の完成度の極めて高い傑作に拍手!!!

 

映像特典の監督・キャストのインタビューや
封入特典のムック本はなかなか参考に。
前知識無しで一度目、特典を観て二度目、観る目が変わって楽しめる。

[DVD映像特典]
 本編ディスク
 ●予告編集
 ●フォトギャラリー
 ●スタッフ&キャスト解説
 特典ディスク
 ●メイキング
 ●ペドロ・アルモドバル監督インタビュー
 ●インタビュー (スタッフ&キャスト)
 ●レオノール・ワトリング、来日インタビュー

[封入特典]
 ●豪華ムック本「オール・アバウト“トーク・トゥ・ハー”」

トーク・トゥ・ハー リミテッド・エディション
レオノール・ワトリング ペドロ・アルモドバル ハビエル・カマラ

by G-Tools

トーク・トゥ・ハー スタンダード・エディション
レオノール・ワトリング ペドロ・アルモドバル ハビエル・カマラ

トーク・トゥ・ハー
ペドロ アルモドバル Pedro Almod´ovar 百瀬 しのぶ

トーク・トゥ・ハー オリジナルサウンドトラック
サントラ

トーク・トゥ・ハー
〜イマジネイション コンパイルド・バイ・ペドロ・アルモドバル

映画主題歌
シャーリー・ホーン ジミー・スコット ゴールドフラップ

 
■ 映画「オール・アバウト・マイ・マザー」のレビュー
■ ペドロ・アルモドバル監督の作品紹介はこちら
■ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団 来日20周年記念講演
「カフェ・ミュラー」「春の祭典」のレビュー

| | Comments (4)

January 19, 2005

「悪魔のようなあいつ」 - 2

[DVDドラマ]★★★★☆

最終話の特典映像で脚本の長谷川和彦氏が語っているが、
当時視聴率が11.6%であまり芳しく無かったとは…。
演出・プロデュースの久世光彦氏の意向で
三億円強奪事件の犯行現場の再現シーン”以外は全てスタジオ撮影だったそう。
だから車や電車の中の窓の外が全てバリバリのハメコミだったのか。
三石さんというスタントのチームを担当とした人が、
実際取り調べられた時のエピソードなどを参考に、かなりリアルな再現をし、
犯人でしか知らないようなネタもこのドラマに提供してしまったよう…。
4巻から随時登場するこの回想シーン(ここだけフィルムでロケ撮影)は本当に見事。

三億円事件”という未解決事件のある種の“愉快犯”の犯行は
ロマンを感じる不思議な痛快感がある。
“街頭三億円インタビュー”でもコメントされているが、
誰も死なせず、警官に扮装した青年が緻密な計画で三億円の強奪に成功した
この犯人は決して憎めない、ヒーロー感すら感じられるところがあるのだ。
三億円という前代未聞の額…当時の金額で三億、現在であれば1ケタ多い額だろうか。
この“強奪した紙幣を使うとバレるので、時効をひっそり待つ
このシチュエーションといい、
時効まであと半年と迫った緊迫ムードといい、
ガッツンガッツン入る主題歌『時の過ぎゆくままに』といい、
上村 一夫の同名原作コミックといい、このコラボ感は見事。
実際は視聴率とドラマというメディアの関係上、
時効の日までドラマが続かなかったという裏話もあるそうなのだが、
それはそれで、こう落とすとは想像つかなかった。

港町、横浜だけを舞台に描かれたこの作品。
良(沢田研二)の帽子とサスペンダーが似合い過ぎる。
野々村(藤竜也)のサングラスの下の目は、いつもその良を想う。
良達の夢は、悲しい結末で幕を降ろすのだが、暗い絶望感は不思議と無い。
それは、良の満足気な顔と、実際にあのロマンは終わっていないという事実。
実際に時効を迎えた日、本当の彼はどうしたのだろう?
そんな平凡な一市民の考える夢とロマンなのかもしれない。
 
では、ざくっとDVD BOXセット-2に納められている6〜9各巻の感想を。

6 第11,12話

三億円はどこに??
白戸の言葉はなんと、そんな事だったとは?
表を作り、容疑者を消して行く良。
ところが意外な人の犯行だった…。
世界地図を広げ夢の島へと模型の船を走らせる野々村。
彼の良への気持ちはどうなるのか?
誕生日を迎え28才になった良は言う。
三億円は青春なんだ。三億円というお金の存在を越えた…
良、あんたは何処へゆくのだ?
女達、ノノだけが良より好きなものがある。
 
7 第13,14話

まさかの事態!
細川俊之演じる、王の手引きをうけるはずが、あんなヤクザ者に邪魔されるとは!。
台風による豪雨で化膿した傷。熱でうなされる良。
あの病気は『発狂』もしくは『記憶喪失』になって死を迎えるなんて!!
天真爛漫のノノの愛がセツない。
更にセツない野々村…。
そして、三億円は…いかん、これは面白すぎる!!
 
8 第15,16話

三億円事件”の展覧会でついに狂ったか?良??
忘れてしまったほうが良かったのか、思い出したほうが良かったのか???
ついに殺人までも犯してしまって…。
細川俊之演じる、王のキャラと一本調子の話し方が無気味でいい。
それにしても野々村と良の過去。それだけの愛情とは思えないが…。
良を愛した者は皆吹不幸になるのか。
篠ひろこ演じる彼女…ひたむきさがセツない。
岸辺一徳デイブ平尾のくどい演技も笑える。
さあ、三億円はどこに?
 
9 最終話

日本を脱出するんだ…。ダメな時は戦争だ!
良は本当に狂ったのか?それとも正気なのか?
“お祭りだ。戦争だよ。”
あまりにも悲しいりんごの歌。
初めて走ったいずみまで…そんなに綺麗さっぱりしていいのか?
ラストシーンで良は笑っている。
三億円の舞う中で満足気に笑う良の顔は、どこか満足気だ。
 
 
悪魔のようなあいつ DVDセット 2
沢田研二 藤竜也


悪魔のようなあいつ DVDセット 1
沢田研二 藤竜也


原作コミック
悪魔のようなあいつ (上)
阿久 悠, 上村 一夫


悪魔のようなあいつ (下)
阿久 悠, 上村 一夫



■ ドラマ「悪魔のようなあいつ-DVDセット-1」のレビューはこちら
■ コミック「悪魔のようなあいつ」のレビューはこちら

上村一夫の作品
■ 上村一夫の作品紹介1はこちら
■ 上村一夫の作品紹介2はこちら
 
沢田研二主演の映画
■ 映画「太陽を盗んだ男」のレビューはこちら

沢田研二復刻盤シリーズ〈CDアルバム〉2005/3月発売!
■沢田研二復刻盤シリーズ

| | Comments (0)

その他のカテゴリー

■ツナガリレビューリスト | ◆アルバトロス配給作品 | ◆スタジオジブリ作品 | ◆スター・ウォーズ シリーズ | ◆ディズニー | ◆ドグマ95作品 | ◆ナルニア国物語 | ◇アニメ−ション作品 | ◇オムニバス作品 | ●SF系 | ●アクション系 | ●アドベンチャー系 | ●コメディー系 | ●サスペンス系 | ●スペースアドベンチャー系 | ●ドキュメント系 | ●バイオレンス系 | ●ヒューマンドラマ系 | ●ファンタジー系 | ●ブラックコメディー系 | ●ホラー系 | ●ミステリー系 | ●ラブ・ロマンス系 | ●ロード・ムービー系 | ●戦争系 | ●青春系 | ★ゾンビ系 | ★タイム・トラベル系 | ★ファミリー系 | ★ミュージカル・オペラ系 | ★ミュージシャン系 | ★ヴァンパイア系 | ★力強い女系 | ★動物系 | ★壊れゆく女系 | ★失われた記憶系 | ★子供系 | ★崩れた時間軸系 | ★怪物・怪獣系 | ★悲しき犯罪者系 | ★愛すべきB〜Z級系 | ★愛すべきおバカ系 | ★映画制作の裏側系 | ★歴史・社会の闇系 | ★泣ける映画系 | ★特撮ヒーロー系 | ★神話の世界 | ★芸術系 | ★詩人の世界 | アニメ・コミック | コミック | テレビドラマ | 作家:スティーヴン・キング | 作家:阿刀田高 | 文化・芸術 | 映画・テレビ | 映画監督 | 映画:アジア | 映画:アメリカ | 映画:イギリス | 映画:イタリア | 映画:オーストラリア | 映画:カナダ | 映画:スペイン | 映画:ドイツ | 映画:フランス | 映画:ヨ−ロッパ(その他) | 映画:ロシア | 映画:中国 | 映画:他の地域 | 映画:日本 | 映画:韓国 | 書籍 | 漫画家:D[di:] | 漫画家:上村一夫 | 漫画家:上條敦士 | 漫画家:吉田秋生 | 漫画家:萩尾望都 | 監督制作:ジョージ・ルーカス | 監督:カサベテス・ファミリー | 監督:コッポラ・ファミリー | 監督:サム・ライミ | 監督:ジム・ジャームッシュ | 監督:ジャン・コクトー | 監督:ジャン・ピエールジュネ | 監督:タランティーノ | 監督:ティム・バートン | 監督:テリー・ギリアム | 監督:パラジャーノフ | 監督:ヒッチコック | 監督:フランソワ・オゾン | 監督:ペドロ・アルモドバル | 監督:ロバート・ロドリゲス | 監督:小林政広 | 監督:庵野秀明